CD時代の音楽ファイル
前回「ハイレゾ・オーディオってなに?」の記事で、今まではCD音質「44.1kHz/16bit」が基本だったと解説しました。
CDは音楽用に作られたCD-ROMディスクです。データ容量は700MB程度しか入れられません。いわば、容量が決まっている器に対して、最長で何分の音楽を入れたいかと考えた末に、1秒あたりの最大のデータ量、すなわちCD時代の最高の品質のレベルが決まりました。
当時、こうして「44.1kHz/16bit」という楽曲の規格(サンプリングレート)ができたのです。
レコードに変わってCDが普及した後、iPodや今のウォークマンなど携帯型音楽プレーヤーの利用が進みました。携帯型音楽プレーヤーの場合、CDディスクではなく楽曲はファイル単位で一旦パソコンに保存して、それを携帯型音楽プレーヤーに転送して収めます。これをリッピングといいます。
この時に利用されるファイル形式で最も一般的なのが「MP3」です。
写真や画像ではファイル形式は「JPEG」が普及していますが、音楽界のJPEGのようなものです。JPEGと同様に、CDから楽曲ファイルにリッピングする際に圧縮率を設定することができ、圧縮率を高くしてリッピングすると小さい容量で保存できる(たくさんの楽曲数を保存できる)一方、品質は低下します。逆に高音質で保存するとそれだけデータの容量が増えて保存できる曲数が少なくなります。
理論上、音楽CDからリッピングする楽曲ファイルはCDの音質を上回ることはできません。そのため、ごく一般のユーザーが聴ける音源の基準は、長年、音楽CDの音質が最高レベルだったのです。実際には「SACD」(スーパーオーディオCD)や「DVD-Audio」など、CDを超える音質を耳にする機会はありましたが、いずれも音楽流通の主役になることはありませんでした。
iPadやiPhoneなどでもお馴染みのiTunes Storeでは「AAC」というファイル形式の楽曲も使われています。
ハイレゾ音源は「FLAC」
「MP3」や「AAC」は「不可逆圧縮」と呼ばれ、圧縮時にデータが欠損して元の品質には戻せない仕様です。一方、ハイレゾで主流になっているのは「ロスレス」という完全に元に戻せる圧縮技術(可逆圧縮)が使われています。
現在、ハイレゾ楽曲として最も利用されているファイル形式のひとつが「FLAC」(フラック)です。CDの「44.1kHz/16bit」を超えた「96kHz/24bit」や「176.4kHz/24bit」「192kHz/24bit」など数種類のレートが使われています。
また、圧縮をそもそも行わない非圧縮の「WAV」もあります。WAVはパソコン業界では一般にウェーブと発音してきましたが、音楽業界ではワブと呼ばれます。
これらのハイレゾ音源を一般ユーザーが入手する方法は、音楽配信サイトからダウンロードして購入することです。リッピングでは入手できません。
最高峰は「DSD」
FLACによってハイレゾ音源の利用が加速する中、更に異なる技術を使った高音質のファイル形式が「DSD」です。
Direct Stream Digitalの略称でSACDで採用されていた技術です。アナログからデジタルに変換する際に、MP3やFLACが「リニアPCM」という技術を使っているのに対して「PDM方式」(パルス密度変調方式)という別の方式を用います。そのため「192kHz/24bit」というようなHz/bit表記には該当せず、「DSD 2.8MHz」や「DSD 5.6MHz」のように表記します。ビット数は1bitです。
こうしたことから、一般の音楽配信ストアでは、従来の音楽プレイヤーやパソコン用等にMP3やAACのファイル形式で販売しつつ、ハイレゾ楽曲としてFLAC形式のタイトルもいくつか用意し始めました。
そして更に「e-enkyo music」などハイレゾ楽曲の配信を以前から行っているストアでは「DSD」形式のタイトル販売も開始しています(DSDはDSD Stream Fileの略であるDSFと呼ばれています)。
下記はご存じ坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」音楽購入ページの画像です。
ハイレゾ音源がサンプリングレートや品質によって6種類も用意されて、価格も異なります。
- WAV 96kHz/24bit ¥3,800
- WAV 192kHz/24bit ¥4,000
- flac 96kHz/24bit ¥3,800
- flac 192kHz/24bit ¥4,000
- DSF 2.8MHz/1bit ¥4,500
- DSF 5.6MHz/1bit ¥7,000
> 「Merry Christmas Mr.Lawrence -30th Anniversary Edition-」(e-onkyo music)
※曲単位で購入することもできます(割高にはなります)。
いろいろなファイル形式が選べることはユーザーにとって選択肢が拡がって喜こばしいことです。ただ、その一方で初心者にはどれを選んだらいいのか、解りづらい状況なのかもしれません。
著者: 神崎洋治
メールマガジン(無料)に登録してください。週刊デジマガの更新時にお知らせします。一緒に勉強しましょう!!
■ハイレゾ音源やネットワークオーディオがわかる!!
新刊「体系的に学ぶデジタルオーディオ」新発売(日経BP社刊)。
いま話題のハイレゾ音源、携帯型音楽プレイヤーの変遷、ファイル形式とビットレート、ヘッドホンやスピーカーの選び方、ネットワークオーディオ環境の作り方等、デジタルオーディオの基本がわかる教科書が新発売。週刊デジマガの著者が執筆。